この藻、
ただ者ではない。
熊本を代表する食材として「ひご野菜」の一つにも数えられる「水前寺(すいぜんじ)のり」をご存じでしょうか?
江戸時代には徳川幕府への献上品(けんじょうひん)に選ばれるほど珍重されていましたが、近年は数が激減し、絶滅危惧種に指定されている希少食材です。
一方、水前寺のりから特有の物質が発見されたことで食材としてだけでなく、スキンケアの分野でも脚光を浴びています。
唯一無二の希少食材を食す。
寒天質のぷるんとした食感で、臭みやえぐみは一切なく、それどころか無味無香。冴えた緑の色合いをした水前寺のりは捉えどころがなく、なんとも不思議な食材です。ところが調理されると一変、周囲の食材や出汁のうまみを吸収し、噛み締めるたびに豊かな風味が広がります。
「焼いたり揚げたり、手を加えすぎるとよさが消えてしまうんです。味や香りなど足りない部分を補ってあげるのが、水前寺のりの魅力を引き立てるコツです」
教えてくれたのは、熊本城下に店舗を構える1870年創業の老舗「日本料理 おく村」の6代目・奥村賢(おくむら・さとし)さん。15年以上にわたってオリジナルの水前寺のり料理を生み出し続けています。刺身のツマなど料理のワキとして使われることの多い水前寺のりですが、奥村さんが手がけるのは水前寺のりを主役とした料理。「おく村」では「水前寺のりコース」として提供しています。
水前寺のりの食感にハモの卵でアクセントを加えた塩辛や、食材と出汁のうまみを水前寺のりに凝縮した煮物椀(にものわん)など、10品が並びます。コースの価格は1万1,000円(税込)。仕入れ値が1㎏で1万5,000円にもなるという食材の原価と、採取してから食すまでに必要な手間と時間がその値段の理由です。
「食べる前に殺菌処理をする必要があるのですが、その工程に2か月半ほどかかります。塩を入れたり、水を変えたり、干したり、生産者の方はつきっきりでその作業に追われるんです」
水前寺のりは「ラン藻類(そうるい)」と呼ばれる藻の一種で、半分以上が寒天質でできています。そのため刺激に弱く、ぞんざいに扱うとすぐに劣化してしまう上、温度にも敏感なため、工程のほとんどを手作業で行わざるを得ないのです。多くの手間と時間がかかることから水前寺のりを扱う生産者は年々減り続け、今や熊本県と福岡県に数軒しか残っていません。知名度も下降の一途をたどっています。奥村さんの料理には、水前寺のりを多くの人に知ってもらいたいという願いも込められています。
「水前寺のりを食べることは、“歴史を喰らう”ことだと思っているんです。歴史を知ると料理の味わいもより深くなりますから」
奥村さんの「歴史を喰らう」という言葉。その意味を理解するためには、水前寺のりがたどった数奇な運命を知る必要があります。栄光と苦難、そして未来への希望。ここからは、水前寺のりの来しかたを振り返ってみましょう。

水前寺のりとハモの子(卵)の塩辛
(水前寺のりコースの一品)

水前寺のりはカルシウムや鉄分などが豊富で、栄養価も高い食材。
※「新発見『サクラン』と伝統のスイゼンジノリ」による

「日本料理 おく村」6代目 奥村賢さん
「水前寺のり くまもとの会」のメンバーとして、保全活動やPRにも精力的に活動しています。
水前寺のりの“歴史を喰らう”
「吸物は先出来(まづでか)されしすゐぜんじ」
これは松尾芭蕉が水前寺のりの吸い物の素晴らしさを詠んだ句です。水前寺のりがいつから人々に食されるようになったのかは定かではありませんが、江戸時代、細川藩(熊本県)や秋月藩(福岡県)が徳川幕府へ献上するほど大切に扱われた食材でした。時代を経ても、熊本県や福岡県の一部でしか採れない特別なものとして、懐石料理などでも重宝されています。それにしても、なぜ水前寺のりはこの地域にだけしか生息していないのでしょうか。
「水がきれいというだけでは水前寺のりに最適な環境とは言えません。阿蘇山という存在が重要な役割を果たしているのです」
こう語るのは、水前寺のり研究の第一人者で東海大学名誉教授の椛田聖孝(かばた・きよたか)さん。軟水の特徴を持つ日本の水の多くは、水前寺のりが生きていくために必要なカルシウムなどのミネラル分をあまり含みません。一方熊本の水はミネラル分が豊富な硬水。その理由は阿蘇の台地に降った雨が火山灰層を通る過程でカルシウムや鉄分を吸収するからです。豊富な湧水量と噴火を繰り返す阿蘇山の存在があったからこそ、熊本で水前寺のりが生まれたのではないかと椛田さんは話します。
そんな水前寺のりを取り巻く環境を激変させたのが、1953年に発生した水害です。大雨により河川が氾濫したことで、水面に浮遊して生きる水前寺のりは壊滅的被害を受け、絶滅したと考えられていました。その後熊本市の調査で生存が確認されたものの、湧水量の減少や工場設置による水質変化などもあいまって、1997年に絶滅危惧ⅠA類(ごく近い将来、絶滅の危険性が極めて高い種)に指定されました。いまでは人の手による栽培という形で辛うじてその命脈を保っています。

「水前寺のりコース」
11,000円(税込)
●煮物椀:牡丹ハモやじゅん菜などのお吸い物/●向付:味付けした酢をかけたタイの細づくり/●焚合せ:ヒゴムラサキやタイの真子(卵)などの煮物/●珍味:水前寺のりとハモの卵の塩辛/●食事:出汁で炊き上げた米と水前寺のりの混ぜ込みご飯
※写真は「水前寺のりコース」の一部です

阿蘇に降る年間3,000mm以上の雨の一部は、やがて熊本の湧水となります。

太陽光を調整するために黒いネットを張るなど工夫された栽培場。

年間2tの水前寺のりを収穫することができます。

東海大学名誉教授 椛田聖孝さん
40年にわたり水前寺のりを研究しています。
絶滅危惧種が化粧品に!?
くるぶしほどに水が張られた約600㎡のプールに水前寺のりがびっしりと浮かんでいます。ここは熊本県益城町(ましきまち)にある、水前寺のり専用の栽培場です。プールには熊本の湧水でしか育たない水前寺のりのために、地下水が絶え間なく供給されています。この栽培場を一人で切り盛りしているのが、金子慎一郎(かねこ・しんいちろう)さん。実は金子さんが栽培している水前寺のりのほとんどが食用ではありません。その用途は、化粧品です。
水前寺のりから未知の物質が発見されたのは2006年のこと。発見者は金子さんの姉で、研究者の岡島麻衣子さんでした。「サクラン」と名付けられたその物質は、保水力に非常にすぐれているという特徴があり、ヒアルロン酸の10倍もの水分を吸収することができます。姉の麻衣子さんを通じてそのことに興味を持った金子さん。当時は東京大学を卒業後、大手メーカーでエンジニアとして働いていましたが、絶滅危惧種でありながら未来への可能性を秘めているというギャップに惚れ込み、仕事を辞めて東京から熊本に移住。32歳で水前寺のりの栽培へと乗り出しました。
「生産者の先輩方に手ほどきを受けながら、無我夢中でした」
栽培が軌道にのり8年。化粧品の原料として抽出したサクランを出荷できるようになり、5年ほどが経ちました。毎年化粧品の市場規模は拡大していますが、栽培の手間やサクランの抽出にかかる費用を考えると、採算が取れるまでにはまだ時間がかかるといいます。
「ビジネスとして成立させることが、何より種の保全につながると僕は思っています。ただのボランティアでは、自分がいなくなった後に人が続きません。多くの人が水前寺のりに魅力を感じ生産者が増えれば、種は存続していくんです」
金子さんはいま、より安定してサクランを供給できるよう、水前寺のりの室内培養も研究しています。栽培場では水前寺のりが他の種に脅かされやすいことや、常に大量の湧水が必要なことなどを考えると、培養での生育が安定的に成功すればより多くの需要に応えることができます。絶滅危惧種を未来に繋いでいく準備は、金子さんの手によって着々と整えられているのです。

水前寺のりの生産者 金子慎一郎さん
2007年に「グリーンサイエンス・マテリアル」を設立。水前寺のりの栽培や培養方法などを研究しています。
スキンケアの新たなかたち。
幕府献上品の高級のりが
お肌の救世主に!
Photo/Kodera Hiroyuki
Text/Sugaya Ayaka
保水ヴェールに感動! 超強力なお肌のお守り。
水前寺のりから抽出されたサクラン成分の実力を、乾燥性敏感肌の編集部員・菅谷が体験してみました!

サクラムアルジェ
モイスチャー ジェル コンプリート マスク(美容液ジェル)
50g ¥5,060
SACRUM ALGAE(サクラムアルジェ)株式会社
サクランの潤い高分子ヴェールが「第二の肌」となって24時間肌バリア。
スイゼンジノリからの抽出成分であるサクランは、肌に塗ると浸透せずにナノレベルの緻密な水のヴェールとなって、均一に広がります。だから肌にぴったり密着して「第2の皮膚」を形成、敏感肌を徹底的に守り抜きます。
水前寺のりの生産者・金子さんに教えていただいたのは、『サクラム アルジェ モイスチャー ジェル コンプリート マスク』。「サクラン成分は0・02%以上配合されると効果が発揮されます。濃度が高いほど保水のヴェールは厚く長時間持続するのですが、この化粧品は、それが高濃度配合されているのです」(金子さん)。ヒアルロン酸の10倍というその保湿力を体験してみました。
私、編集部員・菅谷は乾燥性敏感肌なので、ふだんから保湿力の高いケア用品を使っています。その私がこちらのジェルを使ってまず驚いたのは、その使い心地です。保湿力の高いケア用品にありがちな、寝ている間中ベタベタしていたり、重いテクスチャーがじっとりと乗っている感覚はなく、肌にすっとなじんでいきます。
そしていちばん驚いたのは、朝起きて洗顔をしたときです。夜に塗ったジェルが、ぬるぬると落ちていく感触があるのです。これは保水のヴェールが皮膜となって肌を覆ってくれていた証。特にベタベタしていたわけでもないのに、水で落とすときだけぬるぬるとしっかり落ちる、楽しい感覚でした。
この保水ヴェールが高いバリア機能となって、大気の汚れや刺激からお肌を守ってくれているそう。そのことを証明する試験結果もありました。サクラン成分を塗布し、その上から汚れをつけた後、水で洗い流すと、汚れが綺麗に落ちていたのです。
10日間試し、保湿力と実感できるバリア機能が楽しい優秀な化粧品でした。希少な絶滅危惧種がもたらす夢の成分、試す価値ありです!
サクラムアルジェの化粧品はこちら(https://www.sacrumalgae.com)より





