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い草のアクセサリーを手がける、女性二人のプロダクトユニット「itiiti」

2024/05/02

い草のアクセサリーを手がける、女性二人のプロダクトユニット「itiiti」

Photo/
Uchimura Yuzo
Text/
Maruyama Ryutaro

私とあなたを結ぶもの。
アクセサリーにして
届けたい。

熊本の二人の女性アーティストが、
2010年からスタートしたユニット「itiiti」。
2人が手がける、県の名産品である
い草を素材とした独自のアクセサリーが、
いま注目されています。
い草の主な産地である
八代にゆかりのある2人に、
活動に込める思いを聞きました。

1日に制作できる数は5つにも満たないそう

ピアス1つにつき
約1,000粒、
長さにして3mの糸通し。
1日に制作できる数は
5つにも満たないそう。

ラインナップも豊富

直径4cmの片耳タイプ「TEN」、
ツートンカラーの「HANABI」など、
ラインナップも豊富。
驚きの軽さとやわらかさ。

い草

い草の原草は
福岡県柳川市の
染色工場へ持ち込まれ、
専用の機械で鮮やかに
染められます。

“分解と集積”が「itiiti」のコンセプト

“分解と集積”が「itiiti」のコンセプト。
ものを最小単位まで分解し、構築し直すという手間に対して人からかけられた、
「何で“いちいち”そんなことするとね?」
という言葉から、ユニット名を付けました。
また、「“i”は人を表していて、i(生産者)+ ii(itiitiの2人) + i(消費者)として、生産者と消費者の架け橋になりたいという気持ちがあります」
と二人は語ります。

畳のイメージを
覆す新しい形。

 「itiiti」の村上貴美さんと田中典子さんが出会ったのは、熊本デザイン専門学校入学時。インテリア科で建築デザインを学んだ級友の二人は、卒業後に建築の道へと進みます。その後も交流は続き、熊本市内の旧河原町繊維問屋街で、県内外から多くのクリエイターが集まって月に1回開催される「河原町アートの日」の会場へ、よく足を運んでいました。
 作品発表の有無に関わらず、つくり手たちが自由に作品を持ち寄り、交流の場ともなっている様子に触れ、ものづくりに対する強い刺激を受けた二人。対話を重ねる中で、「ものに新しい姿や価値を見出したい」という思いをたがいに持っていることに気づきます。2010年、職を辞した二人は、プロダクトユニット「itiiti」を結成。アクセサリー制作を始めました。

建築デザインから
アクセサリー制作へ。

 熊本県は、畳の素材であるい草の生産量が全国一。「伯父がい草農家だったこともあり、い草は身近なものでした」(田中さん)。これを使って何かできないかと考えていた18年、大学生からい草を商品化するデザインを依頼されます。「素材そのものに背景があるものをデザインする奥深さに気づき、本格的にい草で制作をしようと考えました」
 伯父さんから提供されたい草を手にし、小さく刻むことから始めた二人。中がスポンジ状であるい草の特徴を生かそうと、銀糸を通して編み込み、アクセサリーにすることで、畳のイメージから解放された、新しい形を現しました。「小さい頃からい草の原草を見ていたからこそ、このデザインが浮かびました」。アクセサリーを見たい草農家の方々からも、「あのい草がこんな姿になるとは」と驚きの声があがったそうです。

い草の断面を並べた壁面アート
い草の断面を並べた壁面アート

い草の断面を並べた壁面アート。
敬愛する建築家
ル・コルビュジェが手がけた、
フランスのロンシャン礼拝堂の窓と同じ縦横比で制作。

新たな姿や
価値を求めて。

 二人は次のステップとして、アート作品としてのい草の可能性を模索しています。特徴的な断面が並ぶようにフレームに敷きつめた壁面アートなど、個人の装いを超えて、生活空間を彩る大きな作品の制作を始めました。
 「畳の需要が減り、いま国内に流通するい草の約8割が外国産です。私たちが手がけるものを通して人の目に留まり、買っていただけることが、ささやかでもい草の需要につながればと思います。そしてこれからも、誰も目にしたことのない新しい草の姿をお見せできたら」。ときに大きく、ときにこまやかにい草を見つめる二人。その言葉には、プロダクトを通してものの新たな価値を見出したいという、「itiiti」の原点の思いがありました。

column

熊本が支える
日本の“い業”

 畳の原料となるい草の国内収穫は現在、すべてを熊本県が担っています。しかし、畳の需要低下と生産者の高齢化により、2005年には21,800tだった収穫量は23年には約4分の1の5,440tに。生産農家数も1,170戸から296戸へ減少しています(農林水産省の作物統計による)。
 しかし、熊本県が主導し、い草の品種改良が進む現在、天候にもよりますが、単収(10aあたりの収穫量)は少しずつ上昇。田中さんの伯父でい草農家の河内正嗣(かわうち・しょうつぐ)さんは、宇城市松橋町に約3町(9,000坪)の農地を保有。茎が細く、きめこまやかで上質な「ひのみどり」と、10年前に登場した、丈夫で大量生産に向いた新品種「涼風」の2品種を栽培しています。

い草農家の河内正嗣(かわうち・しょうつぐ)さん

畳の原料となるい草

1枚の畳に使うい草はほぼ1貫(約4,000g)。誰もがかいだことのあるい草のあの香り、実は「泥染め」という工程でつく染め土の匂いがうつったもの。本来のい草は無臭です。

店舗情報

下記の場所で作品を手に取ってみられます。

●OMO5熊本(熊本) ●ヤマノテ(熊本) ●KoKIN’(熊本) ●不知火美術館(熊本) ●ベネッセハウス(香川) ●ワタリウム美術館(東京) ●OKUYUKI(東京) ●SALVE(大分)

ウェブストアでの購入も可能です。

●WEBサイト/https://itiiti.official.ec/

●instagram/itiiti_official

「pomodoro」(ポモドーロ)とは……「pomodoro」(ポモドーロ)とは……

 「熊本がもっとおいしくなる」をコンセプトに、熊本のグルメ情報や文化をお伝えするフリーマガジンです。年3回発行し、熊本市内の交通要所や観光名所等で配布しています。

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