私のものづくり。そのすべては天草にある。
素敵なものづくりを続ける熊本ゆかりの作家をご紹介する連載、第2回は、ボタン作家・INOUE YUMIさんです。9月、編集部が訪れた、東京都内で行われたボタン展は、用意されていた作品のほとんどが初日に売れるほどの盛況。そんな、次の展示が心待ちにされる人気の天草ボタン。
どんな作家が、どのように制作しているのか知りたいと思い、11月中旬、INOUEさんのアトリエをたずねました。
INOUE YUMIさん
「何十年もこの
ボタンを使って
もらえたら」と語る
INOUEさんのアトリエ。
磁器の原料である「陶石」を素材に、天草ゆかりのモチーフで絵付けをしたボタン。それが、INOUE YUMIさんが手がける天草ボタンです。
物心ついた頃から、ミシンに触れていたというINOUEさん。祖母は着物をつくり、祖父は大工という、ものづくりが日常にある環境で育ちました。大学卒業後は、グラフィックデザインやファッションを学ぶために上京。学びながら、バッグや雑貨などの制作・販売を行います。
転機となったのは、天草に帰省した際に訪れた、世界遺産の﨑津集落にある教会を目にしたとき。「まるで時間が止まっているかのような情景で、気がつくと涙が流れていました」。天草が、自分にとって特別な場所であることに気づいたINOUEさん。そんな天草でものづくりができればと、2011年に帰郷しました。そして、ここで創作をするからには、この土地について深く知りたいと考えたINOUEさんは、天草にある観光協会の職員募集を見て、これだと思い応募。観光協会の職員として島内をくまなく巡り、天草の歴史や風土への理解を深めます。
そんな中、天草の高浜焼を知り、素材である天草陶石の透明感ある白さと、抜群の強度に驚き、魅せられます。洋服や雑貨を手がけてきた経験から、「洋服の表情を決めるのはボタン」と語るINOUEさん。「高浜焼を見て、これはボタンにするしかない。そう天啓のように感じました」
ほどなくしてINOUEさんは、天草や有田の窯元に通い始め、さまざまな職人さんに教えを請います。試行錯誤の末、13年に天草ボタンが完成。17年『+botão』の名前でブランドを立ち上げ、展示・販売を開始します。
天草ボタンの魅力の一つは、ボタンに描かれた絵。そのすべては、地元の風景がインスピレーションのもとになっています。
「天草には、ここにしかない風景や文化があります。海も、刻一刻と変化し、異なる表情を見せてくれます。天草にいると、その一つひとつをボタンで表現したくなるんです」
INOUEさんが一つひとつ、時間をかけて手づくりするため、大量生産できず、島外での定期的な展示・販売はありません。けれども、手のひらでぎゅっと握りしめたくなるほどの、いとしさを感じるこのボタン。ぜひINOUEさんのウェブサイトで展示予定をご確認いただき、あなたも、手にとってご覧ください。
ボタンの絵のアイディアを
INOUEさんにくれるのは
いつも天草。