とんこつスープとにんにくが特徴的な熊本ラーメンは、およそ70年前、県北部の玉名(たまな)にあった中華そば店「三九(さんきゅう)」がはじまりと言われています。
熊本ラーメン発祥にまつわる物語や、地元の人気店を取材しに、玉名を訪れました。


岱明海床路(たいめいかいしょうろ)は、干潮時だけに現れる道路。
玉名の名産である海苔の養殖や、アサリ・ハマグリ漁をする漁師が、沖に停めた船に移動するためにつくられました。

「千龍」店長の中嶋寿重さん。

麺は熊本市の製麺所から取り寄せる。
熊本ラーメンの元祖「三九」の足跡。
「1952(昭和27)年、国鉄高瀬駅(現在の玉名駅)の近くに開店した『三九』というお店で熊本ラーメンははじまりました」。玉名ラーメン協議会事務局長・中川勝也さんは、そう語ります。
もともと福岡県の久留米にあり、繁盛していた三九の中華そばは、豚の骨だけを煮込んだとんこつスープ。店主の四ヶ所日出光(しかしょ・ひでみつ)さんは、それを玉名に持ち込みます。おいしいとその評判を聞きつけて、四ヶ所さんのもとを訪れた三人の若者が、のちに熊本ラーメンを代表する存在となる「こむらさき」「味千ラーメン」「松葉軒」(松葉軒は現在は閉店)の創業者たちだったそうです。
もちろん、玉名にも、三九の流れをくむお店が誕生。やがて“玉名ラーメン”と呼ばれる、独自の路線が生まれました。
「玉名ラーメンの特徴は3つ。スープに豚の骨だけを使うこと。羽釜で炊くこと。仕上げににんにくをかけることです」。中川さんが東京で経営する玉名ラーメン店、「くまめん 神田店」店長の髙木正寿さんが教えてくれました。
「玉名のラーメンは、とんこつスープなのに、こってりしすぎていないんです。その秘密は、羽釜の独特の形にあります。煮込むときにスープに対流が生まれ、スープと脂分が混ざりあい、乳化が起こるのです。コラーゲンなどの成分も、たっぷりと骨から出てきます」
また、熊本ラーメンではおなじみのにんにくは、お店によって揚げたり、炒ったりなど違いはありますが、仕上げにかけることは玉名では共通しているそう。そして、それらの特徴こそが、三九から玉名ラーメンに受け継がれたものだと聞き、実際に各店を食べ歩いてみようと、編集部員は玉名を訪ねました。

写真提供:玉名ラーメン協議会
「三九」の店主、四ヶ所日出光さん。
1952年頃の写真。

写真提供:玉名ラーメン協議会
1955(昭和30)年頃の玉名駅。近隣の万田炭鉱に通う労働者などでにぎわったそう。

写真提供:玉名ラーメン協議会
四ヶ所さんが「三九」佐賀店で手がけた中華そば。
地元民も観光客も愛する「千龍」。
玉名で食べ歩きをしたあと、ファンの間で「玉名ラーメン四天王」の一角と呼ばれる人気店であり、玉名出身の知人からすすめられたお店「千龍」を訪れました。さっそく、ラーメンを注文。濃厚さを感じさせる、ラードを浮かせた茶褐色のとんこつスープは、すすってみると、意外なほどあっさり。
「スープの材料は、うちでは豚のゲンコツ(大腿骨)と背骨だけ。羽釜の強い火力で、2時間弱で一気に炊くので、とんこつのくさみが出ないんですよ」。店長の中嶋寿重さんがそう教えてくれました。
のどごしのいい中細麺は、やや柔らかめに茹でられ、スープによく絡みます。ラードは、ねぎを揚げた「ねぎ油」。同店独自の調味料で、さわやかな香りと甘さが、味をやさしくまとめる決め手です。
「にんにく入れますか?」とお店の人に聞かれたら、「はい」と答えることをおすすめします。焦がさないように炒られたにんにくの香ばしさが、まろやかなスープを一層奥深くしてくれるからです。スープを飲むとき、すくったにんにくの量で味わいが変わるのも、また楽しい。明日も、また食べたい。自然にそう思わせてくれるラーメンです。
寿重さんの夫・龍一さんのお母様がはじめた千龍は、今年で創業46年目を迎えます。玉名市内のラーメン店で働いていたお母様が、独立して開いたこの店を、お母様の死後、寿重さんと龍一さんで受け継ぎました。
「三九については、くわしいことは親には聞きませんでした。けれども、玉名の多くのお店で行われている、豚の骨だけでスープをとることや、釜に水を継ぎ足していく“呼び戻し”という製法は、久留米ラーメンに見られる特徴。三九から伝わったものだと思います」と寿重さん。
「昼は、仕事の休み時間にいらっしゃる方々、夜は家族連れのお客さんが多いです。帰省時に必ず食べにきてくれる方や、親子3代で通ってくださる常連さんもいらっしゃいます。お子さんがおいしそうに食べる姿を見るのはうれしいですね」
玉名の人々に愛される、千龍のラーメン。けれども、中嶋さんの言葉の端々から、その理由は、「源流」の味を受け継いでいるからだけではないことを感じました。
四ヶ所さんは、3年ほどで玉名の三九を閉め、その後は佐賀に移り、そこでも自身のラーメンの味を広めていたといいます。多くの人に喜んでもらいたいと思う心、それこそが、三九が玉名の地に残したラーメンづくりの真髄なのかもしれません。

ラーメン
850円(税込)
チャーシュー・海苔・キクラゲ・ねぎのトッピングが、玉名ラーメンの基本。千龍の炒りにんにくは、乾燥にんにくを焦がさないように2時間油で炒って完成。

麺は決まった茹で時間はなく、そのときのスープに合うように、また、食べるお客さんの年齢などによって茹で加減を判断しているそう。


26年前に現在の店舗が建てられてから、千龍で使われ続けている鉄製の羽釜は、国内でも最大級。

