古文書が手がかりに。
よみがえった上様の
おもてなし料理。
御鱠(おなます)
煎り酒
御汁
御猪口
御肴
御平椀
御飯
御菓子
趣向をこらした
品々から伝わる
歓迎の心。
肥後のお殿様が召し上がった料理を、現代の熊本で食べることができる−−−。そう聞いて訪れたのは、市内中心部の通町筋(とおりちょうすじ)近くにある「熊本 郷土料理青柳(あおやぎ)」。1803(享和3)年に藩主細川家の料理人が書いた『料理方秘(りょうりかたひ)』や、1817(文化14)年の『歳時記』といった熊本藩に伝わる飲食物製法書の記述をふまえ、藩主が客人のおもてなしに出した御膳を、現代の趣向に合わせて再現したというのです。熊本城にちなんだその名は、本丸御膳。
「この御膳の特徴は、醤油がなかった時代の味付けをしていることです。室町時代から用いられていた煎り酒が当時はまだ使われていました。これは削り鰹を酒で煮詰めたもの。熊本のお国酒である赤酒を入れています」(本丸御膳専属料理人・田中伸文さん)
ほかにも、1782(天明2)年に編纂された豆腐料理集『豆腐百珍』で、“奇品”とされた玲瓏(れいろう)豆腐というお菓子(当時は幕府への献上品だったそう)もあり、“わさもん”といわれる新奇を好む県民性が献立に垣間見えます。また、清流に生息する鮎が熊本藩の特産品だったとうかがい、いまも昔も熊本は“水の国”であることがわかりました。
熊本城築城400年祭が開催された2007(平成19)年、本丸御殿の大御台所(おおおんだいどころ)で供される料理が公募された際、「青柳」の御膳が選ばれました。翌年4月の一般公開以来、観光客に熊本の料理を伝えてきましたが、2016(平成28)年に起きた熊本地震の影響で本丸御殿が被害を受け、提供を中断。現在は同店のみで注文が可能です。