麺に春雨を使い、スープはあっさりした後味の中華ベース。
野菜をふんだんにトッピングしたこのヘルシーな料理は太平燕といい、熊本では学校給食にも出るおなじみの料理です。
その魅力を探るため、元祖といわれる中華料理店を取材しました。

太平燕のルーツといわれる中国福建省。
鶏出汁のスープにからむ太麺の春雨!
1933年創業
中華料理 会楽園(かいらくえん)
太平燕のルーツは中国福建省。日本に渡った華僑が1930年代、故郷の料理を模してつくったのが始まりといわれています。以来、90年近くの歳月をかけて県民の間に浸透していきました。その源流ともいえる老舗中華料理店が2店舗、熊本市内に現存しています。1つが「会楽園」です。太平燕のスープは鶏がらで出汁をとっており、上品な香りとやさしいうまみが口のなかに広がります。春雨とシャキシャキの白菜の食感の、心地よい対比も魅力です。
「うちの出汁は鶏しか使っていません。鶏ならではの香りとうまみが感じられると思いますよ」と話すのは店主の薛博之さん。「会楽園」の3代目です。出汁のとりかたは創業当時から変わらないこだわりとのこと。さらにもう一つ「会楽園」ならではの特徴があります。それは、じゃがいもとさつまいものでんぷんを合わせた太麺の春雨です。そもそも太平燕はあっさりして食べやすい料理。しかし「会楽園」の太平燕は、厚みのある太麺なのでスープとよく絡み、さらに食感も上のせされることで、ラーメンやちゃんぽんのような食べごたえがあるのです。
「会楽園」は1933年、福建省出身で華僑だった薛さんの祖父が創業。親から子へと代々受け継がれてきました。10年ほど前からは薛さんが夫婦で店を切り盛りしています。最近は辛いものが好きな人のための味変として、発酵唐辛子を新たにメニューに加えました。
「初めはうちの味を変えることに抵抗がありました。でも食べたらおいしかったんですよ。時代によって変えたほうがいいこともあると思うので、絶対にこれじゃないといけないという考えは持たないようにしています」
本当においしいと思う太平燕を提供することが、薛さんの3代目としての矜持です。そして「会楽園」と並び、太平燕の元祖といわれる中華料理店がもう1つあります。

太平燕
1,200円(税込)

食べ応え抜群!
太麺の春雨。

鶏の香りとうまみが凝縮したスープ。

発酵させた唐辛子をきざんだ調味料。
少量でも辛いので、味見をしながら少しずつ入れるのがおすすめです。

太平燕(4食入・乾麺)
1,650円(税込)
熊本空港や土産物店などで購入できます。

3代目店主 薛博之さん
寡黙なお人ながら、太平燕のこととなると饒舌に語ってくれます。
太平燕に込められた、華僑たちの望郷の思い。
1934年創業
紅蘭亭(こうらんてい)
「太平燕にはニンニクやショウガなど香味の強い食材は入っていません。そういう意味では、食材の持ち味を存分に活かせる料理といえるかもしれませんね」
教えてくれたのは葉山耕司(61)さん。熊本市中心部の「下通りアーケード」に6階建の本店を構える「紅蘭亭」の代表です。店自慢の太平燕は、豚と鶏からバランスよく出汁をとったスープを、太平燕のルーツでもある福建省産のミネラル豊富な塩で仕上げており、滋味深い味わい。そして具材はイカやエビ、キャベツなどオーソドックスな食材に加え、「金針菜」という漢方食材が使われているのが特徴です。金針菜とはユリ科の花のつぼみを乾燥させたもので、食感がよくほのかな甘さが味に奥行きを与えます。また虎の毛皮のように表面にシワ模様のある揚げ卵は「虎皮蛋」といい、シワ入れのためにかなりの高温で揚げねばならず、確かな技術がうかがえます。
さらに「紅蘭亭下通本店」では、四季ごとに旬の食材を使った期間限定の太平燕を提供しており、取材で訪れた12月のメニューは「牡蠣の太平燕」。濃厚な牡蠣のうまみと爽やかに香る柚子が渾然一体となった、旬の魅力を味わえる一品です。
「紅蘭亭」は1934年創業で、葉山さんは3代目にあたります。福建省出身の曽祖父が20代で来日し、祖父の代で「紅蘭亭」を構えました。
「異国の地で生きる華僑の人たちは、横のつながりがとても強いんです。仲間同士で集まったときに故郷を懐かしみながら太平燕を食べていたのではないでしょうか」
かつて福建省の人々が祝いの席などで食べていた料理が太平燕のルーツではないかと葉山さんは言います。フカヒレや燕の巣などの食材が入ったスープ料理だったと考えられていますが、現地にすらそのレシピは残されていません。当時の日本で手に入る食材で、故郷の料理をまた味わいたい。そんな華僑たちの思いからフカヒレの代わりに春雨を、燕の巣を模して虎皮蛋を使い、太平燕が誕生したのだそうです。
華僑の望郷の思いから生まれた太平燕は、融和を象徴するかのように民族の枠を超え、いまでは郷土の味として熊本の人々から愛されています。ルーツを探り、つくり手の思いを知った上で食べる太平燕は、皆さんにとって特別な味になるかもしれません。

太平燕
1,080円(税込)

熊本の家庭では虎皮蛋の代わりにうずらの卵で代用することが多いです。

高温をキープして短時間で調理することで食材のうまみを凝縮させます。

6階にある最大収容人数120名の「ラフカディオ・ホール」。
コンサートやイベント会場として使用。

金針菜。
鉄分を豊富に含んでおり、漢方や薬膳料理に使われる食材です。

太平燕(1食分・冷凍)
1,150円(税込)
「紅蘭亭」の店舗やオンラインショップで購入できます。

3代目の葉山耕司さん

1930年代に撮影された華僑の人々。
写真最前列右端の赤子が葉山さんの父・祥泰(しょうたい)さん。


