熊本の南阿蘇は、湧水がそのまま飲用にできる地域。蔵内の水源を祀る山村酒造を見学し、水に敬意を持って接してきたこの地域の歴史を目にした思いがしました。
レオナルド・ダ・ヴィンチの名言に「よいお酒がつくられる土地に生まれる人は幸福である」という言葉があります。
この短い言葉からも、イタリア人とお酒の結びつきの深さがうかがえます。そして、現代のイタリアでもこの結びつきの深さは変わることなく続いています。そんなイタリアでは近年、「古い大陸に新しい風をもたらす」として、日本酒が人気を集めています。日本酒は、そのなめらかな口当たりと風味の豊かさから、食後に最適とされ、ワインは食事のアクセントとして飲まれています。そのため、イタリアでは食中はワインを味わい、食後は日本酒を近年たしな嗜むこともあります。
今回、そんなお酒との結びつきの深いイタリア出身のエンリコが、熊本県阿蘇で生まれた「れいざん」という日本酒を取材してきました。ダ·ヴィンチの言葉を思い返しながら、阿蘇という土地の歴史や特徴とともに、そこから生まれた「れいざん」の魅力を紹介します。




「れいざん」のうまみの秘密は、南阿蘇外輪山が長い年月をかけて生み出す清冽な水、酒米、そして阿蘇に生きる蔵人だと語る山村弥太郎さん。
阿蘇の水と風土が調和した
高森町の銘酒。
熊本県の高森町(たかもりまち)には、山村酒造があります。「れいざん」という名前は、山岳信仰の神秘を宿(やど)し、山村酒造の山村弥太郎(やまむら・やたろう)さんの言葉によれば、「『れい』は神聖な魂を、『ざん』は山を意味します。この名前は、阿蘇山の神聖な存在と地域の信仰の融合を象徴」しています。
「れいざん」は山村酒造の売上台帳に基づく市場調査によると、熊本県内の地酒市場で8割から9割のシェアを持つ人気商品。山村酒造は創業から260年を超える歴史のなかで、高森町の清らかな水と阿蘇の広大な大地がもたらす美しい自然環境から恵みを受け、品質の高い酒づくりを続けてきました。
敷地はおよそ2,000坪(約6,600平方メートル)とサッカーグラウンド並みの広さ。その1階には、「萬延蔵(まんえんくら)」と呼ばれる、万延(まんえん)年間(1860〜61年)に開かれた酒蔵があります。長い年月が育んだ確かな風格と歴史を感じるその空間には、およそ70本ほどのタンクが整然と並んでいます。風情のある建築の内部は、夏場にも関わらずひんやりとしており、神秘的な魅力を感じました。


「れいざん」のおいしさの特徴は、そのさっぱりとした味わいと奥深い風味です。香り高さやインパクトより、「料理をおいしく味わうすっきりとした飲み口」(山村さん)を大切にするれいざんは、2時間飲み続けても飲み飽きない味と言われるほど。地元である阿蘇の食材との調和を大切にする山村さんに「れいざんと楽しむおすすめの食事」をうかがったところ「お米を使った料理には何にでも合う」とのこと。たとえば、熊本・阿蘇の郷土料理である高菜めしの素朴なうまみは、「れいざん」と相性がよく、愛されている組み合わせだそうです。
透明でやわらかな
水の秘密。

「れいざん」の秘密は、山村さんによると、「そのうまみの鍵は水にあるのです」。他の酒蔵にはない、山村酒造の敷地内にある水源から湧き出る透明で柔らかな水は、まさに自然の恵みそのもの。阿蘇は水に恵まれた土地で、「九州の水がめ」と呼ばれる地域。この水は、銘酒「れいざん」の命そのものとも言えます。酒づくりだけでなく、驚くことに日常の生活においてもこの地下水が使われ、贅沢な暮らしが営まれています。
また、この土地の水は、年間を通じて一定の温度を保ちます。夏でも涼しさがあり、柔らかな口当たりは香りや雑味を感じさせず、透明感のある味と香りに驚かされます。水と気温、土地の恵みが調和して「れいざん」の魅力を育んでいます。
「ここの水、ここの米、ここの人間」という山村酒造のスローガンは、「れいざん」の真髄を象徴する3つの柱です。美しい風土がもたらす透明で柔らかな水と、地元の厳選された米、そして醸造に携わる人々の情熱が結びついてこのお酒が生まれます。
その飲みやすさとおいしさから、一年を通して人々に愛される「れいざん」ですが、残暑から秋口までに特におすすめの飲みかたがあると山村さんが教えてくれました。それは、暑︎い季節に飲む人が多い辛口の「れいざん 本醸造」を、あえて常温で飲むこと。そのキレの良さと爽やかな風味は体をリフレッシュさせながら同時に温めてくれる、まさに涼しさを感じ始めるこの時期にはピッタリな飲みかたです。
暑さが残る日にはグラスだけを冷やし、軽くグラスを傾けながら常温の「れいざん 本醸造」を注いでみてください。水面に立つまろやかな泡を楽しむ通な飲みかたです。
近年の展開と
将来の展望。
この2年間、山村酒造はコロナ禍の中で新たな試みを粘り強く進めてきました。飲食店での消費の急激な減少にも柔軟に対応し、新しい販売チャンネルの開拓やオンライン展開に力を入れています。「人々が集まりお酒を楽しむ」。そんなかけがえのない日常が再び戻ることを願いながら、変わらずおいしいお酒をつくり届けた2年間。その姿は、凛々しくそびえる阿蘇山のように力強く、地元の人々を勇気づける存在です。
近年は漫画とコラボした新しい商品開発などを通じ、その魅力は地元熊本のみならず、県を超えてあらゆる年代の人々に届いています。

漫画をラベルに使用したコラボ商品「レイ斬!」。
2023年9月に40周年を迎えた、全世界での発行部数が1億部を超える名作『北斗の拳』のキャラクター、レイを使用。
伝統を大切にしながら、未来の可能性にも希望の目を向ける山村酒造。2016年の熊本地震から復興を果たした熊本城のように、着実な成長を続ける「れいざん」の蔵元は、これからも私たちに日本酒のおいしさと新鮮な驚きを届けてくれることでしょう。



