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郷土料理を食べるなら、夏は「鯛そうめん」を召し上がれ。

2026/06/29

郷土料理を食べるなら、夏は「鯛そうめん」を召し上がれ。

Photo/
Yamagashira Noriyuki
Text/
Nakazawa Hanzo

天草の郷土料理、鯛そうめん。
鯛の煮汁でそうめんを食べるこの料理の名前を、初めて目にした方も多いかもしれません。
「鯛そうめんなら、河丁(かわちょう)さん」。
そう地元の方々が名前を挙げる料理店「さしみ屋 河丁」を訪ねると、店主の小林孝俊(こばやし・たかとし)さんがこの郷土料理について話してくれました。

郷土料理をもっとおいしく。

 「天草では、お祝いなどで大勢が集まると、鯛の身を刺身でいただき、残った身や骨などのあらを煮付け、あら炊きとして食べていました。さらに、鯛の旨みがしみ出したおいしい出汁を残さないよう、その煮汁にそうめんをつけて食べていたのが鯛そうめんです」
 そう語ってくれたのは、天草の中央部、上島と下島の境目にある「さしみ屋河丁」の店主・小林孝俊さん。同店では、あらだけではなく鯛一尾を丸ごと使い、「鯛めん」の名でこの料理を提供しています。
 「材料は鯛と椎茸だけ。旨みのつまった出汁をそのまま飲んで味わえるよう、煮付けよりも薄めの味付け」にするなど、先代の川上昭和(かわかみ・てるかず)さんが35年ほど前に工夫。現在は、二代目の小林さんがその味を受け継いでいます。
 小林さんは高校卒業後、地元の天草を出て料理を学んだあと、「魚料理を習いたい」と考え、20歳で帰郷。「河丁」で働き始めました。そこで川上さんの娘、月子さんと出会い、結婚。10年ほど前にお店を継ぎました。
 「古くから食べられてきた郷土料理を、うちなりに手を加えて大事に残していきたい。県外から訪れる人も食べ、広まってくれたらうれしい。そんな気持ちで続けています」

「河丁」の店主、小林孝俊さん(左)。先代・川上昭和さんの娘である、妻の月子(つきこ)さん。

「河丁」の店主、小林孝俊さん(左)。
先代・川上昭和さんの娘である、
妻の月子(つきこ)さん。

天然を選ぶ理由。

 厨房を見せてもらうと、大きな鍋で鯛を炊く最中でした。「鯛は提供する前日の朝に仕入れ、焼いてからいったん寝かせて味を落ち着かせます。それから、干し椎茸と一緒に醤油・みりん・酒などで味を整え、3〜4時間煮込んで鯛の味を引き出します」
 ほぐした鯛の身を、椎茸、ネギと一緒につゆにつけていただくと、焼いたことでついた香ばしい匂いを感じます。白くふっくらとした鯛の身と、出汁たっぷりのつゆがからんだそうめんを一緒にすすると、鯛の旨みが口に広がります。手間と時間をかけることで、ここまで鯛の味が引き出されるのかと驚くおいしさです。
 「できるだけ天然の鯛を使っています」と小林さん。天草には、天草さくら鯛などブランド化している養殖鯛もあります。けれども、「養殖は脂がのっていておいしく、質も安定しています。しかし、出汁を味わうことを考えると、脂の多いものではやや異なる味になってしまいます」と小林さんは言います。「天然は出汁がいいんです。昔ながらの、天草の鯛そのままの味を感じられます」
 小林さんが料理で出す鯛は、地元の市場に行き、生け簀(す)を直接見て選んでいるそう。「泳いでいる姿を上から見て、丸っこく、ふっくら厚みのある鯛を選びます。1〜2キロの間のよく肥えたものがいいですね」
 7月下旬の早朝、小林さんが鯛を仕入れている本渡(ほんど)漁港を訪れました。お店から車で5分ほどの場所です。市場が開く朝7時前には、生け簀の中に魚が揃っていました。やがて、場を仕切るセリ子のかけ声に合わせ、次々に魚が競売にかけられていきます。
 天草漁業協同組合本渡支所の森耕助(もり・こうすけ)さんによると、天草は産卵を控えた真鯛の絶好の育成の場であり、好漁場として知られていたそう。「天草は潮が速い海。流れが速い場所で育つ鯛は身が締まり、筋肉質になります。さらには、プランクトンや小魚などの餌も豊富なため、身が締まりながらも脂がのった鯛になるんです」
 そんな天草の鯛の、令和3年度の漁獲量は10年前の半分程度とのことです。原因は、海水温の上昇や水質の変化、赤潮の発生など、環境によるものだと森さんは言います。
 天草の海に訪れている大きな変化に対応するため、漁協では、稚魚の放流などを通して、鯛を減らさないよう取り組んでいるそうです。
 天草の長い海の歴史のなかで、幾多の波を乗り越えながら、受け継がれてきた鯛そうめん。夏の天草で、あなたも味わってみてください。

1kgを超える大きな鯛

1kgを超える大きな鯛は、身が厚く、刺身もおいしい。

セリ

網ではなく、竿で釣った鯛に最も高い値が付く。

丸ごとの鯛

丸ごとの鯛を、干し椎茸とともに煮込んでいく。

そうめん

そうめんは、天草の対岸・島原産。

ネギ

香りと彩りを添えるネギ。

鯛の身

ふっくらと真っ白に炊いた鯛の身を味わう。

出汁は臭みが出ないよう、温かめに。

出汁は臭みが出ないよう、温かめに。

セリの活気がやまないうちに、魚は店へ。

セリの活気がやまないうちに、魚は店へ。

column

天草の郷土料理は
栄養も豊富。

 熊本県立大学の友寄博子(ともより・ひろこ)さんによると、煮汁まで残さず食べる鯛そうめんには、栄養面でも効果があります。
 「魚を煮出したときに取れる、コラーゲンをはじめとしたゼラチン質。そうめんを煮汁とともに食べることで、ゼラチン質を余さず摂ることができます。
 また、鯛にはカリウムやビタミンB6、B12のほかに、皮膚や粘膜の健康を守るナイアシンなどの栄養素が含まれています。水溶性のビタミンやミネラルは煮汁に溶け出しやすいため、これらの栄養素も一緒に摂取することができます。
 さらに、そうめんをよく食べる夏場は、簡単な食事で済ませることが多く、野菜に多く含まれるカリウムが不足しがち。鯛と一緒に食べることで、カリウムの摂取にも効果がありそうです」
 昔から食べられてきた郷土料理には、栄養面でも知恵が潜んでいるのかもしれません。

店舗情報

さしみ屋
河丁

さしみ屋 河丁

益田勝(ますだ・まさる)さん

「鯛めん」2人前3,360円(税込)。
注文は2人前から。前日までに要予約。

●所在地/〒863-0041

熊本県天草市志柿町7102-1

●営業時間/11:00〜14:00、17:00〜21:00

●定休日/不定休

●電話番号/0969-23-7261

「pomodoro」(ポモドーロ)とは……「pomodoro」(ポモドーロ)とは……

 「熊本がもっとおいしくなる」をコンセプトに、熊本のグルメ情報や文化をお伝えするフリーマガジンです。年3回発行し、熊本市内の交通要所や観光名所等で配布しています。

 pomodoroは、トマトを意味するイタリア語。
 イタリア料理の食材と、熊本で採れる食材は共通点が多いことから名付けました。

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