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人吉で、創業から68年。老舗の進化は止まらない。「好来ラーメン」

2026/06/23

人吉で、創業から68年。老舗の進化は止まらない。「好来ラーメン」

Photo/
Hara Fumihiro
Text/
Iwai Daiki

熊本県内のみならず、日本各地からラーメン好きが集まる
人吉(ひとよし)の“黒いラーメン”を知っていますか?
のれんをくぐると、ラーメンを愛し、おいしくするためのチャレンジをいとわない店主親子がいました。

厨房
厨房

厨房に入ると、やさしい顔から職人の顔に。お客さんにとって特別な一杯をつくる。
それが、毅さんの65年の日常。

生きる伝説、
ここにあり。

 人吉に名店ありと、たびたび筆者の耳に入ってくるお店の名。それは、「好来(はおらい)」。うなぎでも、鮎(あゆ)でもなく、ラーメンのお店です。薦める声には、「人吉のよさが詰まっている」というものもありました。アニメ『夏目友人帳』がきっかけで人吉ファンになった筆者は、その味を確かめに行ってきました。
 到着して車を降りると、店外の駐車場にまで届く香ばしいにんにくの匂いに、食べる前から元気を注入されます。入店すると、凝縮されたとんこつラーメンの香りと、元気いっぱいの店主親子が笑顔で迎えてくれました。
 お店を経営しているのは、2代目店主の吉村毅(よしむら・たけし)さんと、3代目でご子息の将輝(まさき)さん。「うちのラーメンのことは何でも聞いてください」と気さくに語るお二人に、まずはお店の歴史を教わることに。驚いたのは、毅さんが開業2年目以降、65年以上にも渡り厨房に立ってラーメンを提供してきたこと。好来ラーメンの歴史とは即ち、毅さんの半生でもあったのです。
 「熊本ラーメンの特徴であるマー油。あれ、昔はどのお店も茶色だったんですよ。黒いマー油はうちがはじめてだったのでは?」。にんにくを炒めてつくられるマー油は、炒める時間の長さにともなって黒ずみます。しかし炒めすぎると、焦げるリスクが高まります。毅さんに、なぜ黒色にこだわったのか聞くと、シンプルな答えが返ってきました。「黒いほうが、インパクトが強そうだと思ったんですよね」
 毅さんの好奇心からはじまった黒いマー油。焦げる直前までじっくりと弱火で炒めるその塩梅(あんばい)は難しく、当初は試行錯誤の日々だったそうです。納得のいく仕上がりまで数年かかったという黒さ、香ばしい匂いは、さまざまなお店に影響を与え、いまではマー油の定番に。しかし、これで終わらないのが毅さん。「もっと香りを出すために、ごま油を加えたところ、さらにおいしくなりました。ごま油は高価なので、コストも考えつつ、続けられたら」

毅さんの頭のなかでは、新たなラーメンの追求が尽きない

毅さんの頭のなかでは、新たなラーメンの追求が尽きない。「緑色のラーメン」を実現したいと思った時期もあったそう。

鍋からあふれるにんにくの匂い

鍋からあふれるにんにくの匂い。
ここから、さらにじっくり炒めます。

茹でる前でも手からあふれるボリューム

茹でる前でも手からあふれるボリューム。
まさか、これが一人前だなんて。

炒めたにんにく

炒めたにんにく。苦味とおいしさの境界線は、目利きにしかわからない世界。

スープの味を
深める鉄の鍋。

 スープは熊本ラーメンらしく、とんこつ。スープにも、歴史ある名店ならではの味があるはずと思っていると、毅さんから興味深いひと言が。「この店で一番仕事をしているのは、スープを炊いている鉄の鍋かもしれませんね」。好来でずっと使っているという大きな鍋を指差しながら、毅さんは続けて話してくれました。「鉄の鍋からはね、ほんのわずかな鉄分が、コクや深みとしてスープに溶け出すんです。鉄以外の寸胴じゃ、そうはならない。この差が食べている人には感じられるんです」

厨房の一角に置かれた鉄の鍋

厨房の一角に置かれた鉄の鍋。
「器具ひとつ、水ひとつでまったく違う味わいになる」と毅さん。

 毅さんのこだわりは、麺にも表れています。麺はすべて、厨房内の製麺機による自家製。「このお店ができる前、私は製麺会社で働いていました。そのためたまたま麺づくりのノウハウがあったんです。製麺機も、店を手伝うことになったとき、会社の方が譲ってくださいました」。毅さんの麺へのこだわりは、断面が四角い麺ではなく、丸い断面の麺にすること。こうすることで、よりプリッとした食感になり、スープとの絡みがよくなるそうです。

水害をきっかけに新調した製麺機

水害をきっかけに新調した製麺機。
強いコシが生まれます。

 好来の特徴といえば、目を引くトッピングも外せません。中央に高く盛られたもやしは、黒いスープと対照的な明るい彩りと、麺とは違う食感で食べる人たちを魅了します。
 「開業時からのトッピングですが、あるとき、どんぶりのサイズを大きくした際、以前よりもやしの量が減ったように受け取られたことがありました。お客さんをがっかりさせないようボリューム感を維持したので、結果としてより大盛りになりましたね」。食べる人のことを最優先に、いつ食べに来ても、変わらず満足してもらうために考え抜いた、好来の“おいしいインパクト”、それがもやしだったのです。

キクラゲやねぎもたっぷり

もやしに隠れて、キクラゲやねぎもたっぷり。つくり手の真心を感じます。

 「生だと臭みが出てしまうし、茹ですぎると食感がない。さらに、もやしの水分が漏れてしまうと、スープの味をぼかしてしまう。課題はたくさんありました」。大量のお湯に一瞬だけくぐらせることで、シャキッとした食感を残しながら、もやしの臭みを取ることに成功。水分ももやしのなかに留めることができ、よりおいしく食べられるトッピングになりました。見た目のインパクトをおいしさに昇華する——。好来ラーメンの真骨頂はしっかりと発揮されていました。

自然豊かな
人吉ならではの味。

 スッキリとした色味のとんこつスープが、黒いマー油をまとう瞬間、いっそう香ばしい匂いが厨房に立ち込めました。最後に、みずみずしいもやしが盛られて完成です。この一杯に込められたこだわりの数々を早く味わいたい。いざ、実食——。まず驚いたのが、すくい上げた麺の多さ。なんと250グラムものボリューム。気前がよすぎて一瞬動きが止まってしまいました。さて、黒マー油のいい匂いを感じながら、スープと麺をいただくと、クセはなくとも厚みのある味を感じられるとんこつスープ、にんにくの風味たっぷりのマー油が、口当たりの軽い麺とともに口のなかに広がります。主張の強い組み合わせながら、スッキリした気持ちで次のひと口に向かえる、その食べやすさに感動しました。
 さらに驚かされたのが、もやしの味の強さ。一つひとつが大きな豆もやしは、スープに負けない味わい。「人吉産のもやししか、この味は出せないんですよ」。将輝さんはそう教えてくれました。好来のもやしは、球磨川を流れるきれいな水をはじめとする、人吉の良質な環境ならではの具材だったのです。

美しい人吉の水

美しい人吉の水だから、好来の味が出る。
自然の恵みも長年愛される秘訣。

 食べ進めるごとに、さらなるこだわりが見えてくる、珠玉の一杯。これが800円でいただけるのだから、びっくり。「今年の夏に改装を予定しています。そのため値段が上がるかもしれませんが、それでもなるべく安く、多くの人に召しあがっていただきたいですね」。最近は、女性客も増加。人吉を訪れたときは、好来に食べに行ってみませんか?

毅さん(右)と将輝さん(左)

毅さん(右)と将輝さん(左)。
リピーターの心を掴むのは、ラーメンの味だけでなく、ふたりのやさしい人柄。

人吉の象徴、球磨川

人吉の象徴、球磨川。“暴れ川„も、この日は穏やか。
流れは速く、日本三大急流の一つと呼ばれます。

店舗情報

好来ラーメン

好来ラーメン
好来ラーメン

●所在地/〒868-0007

熊本県人吉市下青井町76

●営業時間/11:00~15:00

●定休日/月曜日(祝日の場合は翌日)

●電話番号/0966-23-3330

「pomodoro」(ポモドーロ)とは……「pomodoro」(ポモドーロ)とは……

 「熊本がもっとおいしくなる」をコンセプトに、熊本のグルメ情報や文化をお伝えするフリーマガジンです。年3回発行し、熊本市内の交通要所や観光名所等で配布しています。

 pomodoroは、トマトを意味するイタリア語。
 イタリア料理の食材と、熊本で採れる食材は共通点が多いことから名付けました。

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