「そば」 名代肥後そば 政木屋
熊本ならではの馬肉の楽しみかたに、
「馬肉そば」もあります。
およそ120年前から
馬肉そばを提供する、
「名代肥後そば 政木屋」(以下、政木屋)の
5代目店主・正木讓さんに、料理の特徴を聞きました。
甘辛く煮た
馬肉が特徴。
馬肉そばは120年前、2代目店主の奥方が考案したのが始まりだそうです。いまや他のそば屋では見ることがほとんどありませんが、現5代目店主の正木讓さん曰く、「50年前は馬肉がいちばん安い肉だったため、熊本で肉そばといえば馬肉入りのそばを指していました。しかし、年々高まる牛肉人気などを背景に、徐々に減っていきました」
では、なぜ「政木屋」では変わらず馬肉そばを提供し続けているのでしょうか? 「4代目である父の代から、屋号に“肥後”の言葉を加えました。これは、うちが熊本の素材で料理を提供するというこだわりからです。熊本といえば、馬肉。だからこそ、うちでは肉そばは馬肉なんです」と語る正木さん。
「政木屋」の馬肉そばには、馬肉のスライス肉を甘辛く味付けし、柔らかくなるまでコトコト煮込んだものがのっています。馬肉のうまみがそばの出汁にもとけ出し、肉の甘みと出汁の風味豊かな香りと合わさり、そばを啜る手が止まりません。そばにのる馬肉は柔らかくも弾力があり、噛むほどに馬肉のうまみが口に広がります。
そんな馬肉そばの価格は、なんと税込800円。「高価な馬肉入りなのに、安すぎませんか?」と、つい聞いてしまいました。「いやいや、これが適正価格ですよ。馬肉は値上がりしていますが、うちはそば屋なので、そば粉が値上がりしたときだけ料金改定をしています」と教えてくれました。正木さんによると、そば粉の仕入れ値は10年前と比べると、およそ1.5倍になっているそうです。「国産にはこだわりつつ、安くておいしいものを多くのお客さんに楽しんでほしい」という思いから、できるだけ料金を上げない努力をしているとのことです。
正木讓(まさき・ゆずる)さん。
72歳。
そばづくりの極意は
「一にこね、二にこね、
三にこね」。
正木さんは中学生の頃から家業を手伝い始め、「いつか自分がこの店を継ごう」と考えていました。高校を卒業後、「父の店ですぐ働き始めると見聞が広がらない」と考えた末、東京の老舗「並木薮蕎麦」に修行に出ます。そこでそば打ちの基礎を学べたそうです。正木さん曰く、「そばは、一にこね、二にこね、三にこね、です。それぐらいそばをこねる人の腕でそばの味が変わってしまうのです。それと、そば粉は熱が入ってしまうと、風味が損なわれます。熊本県産のそば粉は風味が強いのが特徴。そのため熱が移りにくい木鉢を使い、素早くこねられる3kg(30食分)を最大量として打つようにしています」
一杯のそばに、店主の思いや技術がたっぷり。あなたも、食べてみてください。
120年前から続く政木屋の名物メニュー
「馬肉そば」800円(税込)。
そば粉が8、小麦粉が2の割合でつくられる「二八そば」。ツルツルとした舌触りで、そばの風味もしっかり感じられます。
店内には、掛け軸や木鉢など「政木屋」の歴史を感じさせるものであふれています。
1873年に開業し、紡(つむ)がれてきた伝統のそば。
寒い冬にピッタリの温かくやさしい味の出汁が
体も心も温めてくれます。