熊本のラーメンを、いや、ラーメンを愛する人で知らない人はいないと言っても過言ではないのが、火の国文龍です。
場所は、熊本市街地からやや離れた東区。
「このへんは、文龍を食べるために来る場所」。
そう言われるほどに、食べた者の心を離さない、濃厚とんこつが私たちを待っています。


味変の薬味も、スープの引き立て役。にんにく醤油、辛子高菜、激辛味噌が人気。さわやかな紅しょうがもファンが多いそう。
巨大な龍が待つ
こってりの総本山へ。
阿蘇くまもと空港から、車で30分ほど。住宅街のなかに、突如、龍の頭が見えてきました。この、ひと目見れば絶対に忘れない特徴的な店構え。「火の国文龍 総本店」(以下、文龍)に到着しました。熊本の人に同店の感想を聞くと、こんなに大きな目印があるにも関わらず、みな一様に、ラーメンのおいしさを口にします。この龍が、そっちのけになるくらいおいしいのか……? 期待は膨らむばかりです。
誰もが、「文龍といえば熊本一のこってりスープ」と、口を揃えます。けれども、意外なことに、取材の日に迎えてくださった代表の日高貴広さんは、こう言いました。「文龍は熊本ラーメンを意識したことはないです」。目が点になりながら、その言葉の真意を教えてもらいました。日高さんはこう話します。「とんこつスープにすべてをかけているので、熊本ラーメンに欠かせないマー油を入れないんです。そうすると、これはもう、ご当地ラーメンではないですよね」
とんこつが主流の熊本県内においても、文龍の製法は独特だと日高さんは言います。「一杯のスープに1.4キロ、1週間で2.5トン〜3トンくらいの豚の骨を使用しています。熊本産だけだと足りないので、鹿児島、福岡、広島から集めてもらっています」。厨房をのぞくと、容量が何リットルか想像もつかない大きな羽釜。これでひたすらに炊き込みます。
新鮮なとんこつを使用することで、アクごと炊いてもクセのないフレッシュな味わいになるのだそう。豚の骨自体には、味の違いはほとんどないそうです。しかし、その保存方法で味が変わると言います。「どちらがいい、悪いという話ではないですが、生と冷凍ではまったく別物といっていいほど味が変わります。冷凍のものを使うと、野生味が出ます。一方、うちは生のスープだけを使い、その日つくったものをその日に提供しています。鮮度が命なので、どこにでもできる製法ではないかもしれません」

店内上部の龍の天井画。
おいしさのあまり、天を仰ぐと目が合います。

独特の路面標示は、駐車前から気分を高めてくれる、こってりなごあいさつ。

代表の日高貴広さん。
「県内外に、もっと文龍の味を広げたい」と語ります。
スープファースト。
ほかは引き立て役。
麺へのこだわりも聞ければと質問すると、日高さんは首を捻り、うーん、といった表情。「自家製麺ですが、うちはスープに相当な重きを置いているので、とにかくスープに合う麺をめざしました。あくまでもスープを引き立たせる、じゃましない麺です」。“スープのため”を追求した麺は、その形状や食感が緻密に計算されているそうです。潔いまでのスープファーストは、トッピングにおいても同様でした。
「文龍のスープは、あえて“少し足りない”味わいに留めているんです。それは、人によって味覚が異なるため、自らトッピングして完成させてほしいからです。食べづらいと感じる人がいないよう、あえてトッピングで調整できるようにしています」
ここで、話を遮るように、お腹が鳴りました。一杯振る舞っていただくことになり、目の前に運ばれたラーメンは、不思議と雑味を感じないクリアな匂い。とはいえ、一寸先が見えないほどに、濃厚でクリーミーな色合いは、期待通りのこってり感。スープをひと口いただくと、衝撃的なまでの濃度に、思わず身震い。けれども、驚くほどスッキリとした飲み口。スープをすくうレンゲが止まりません。麺もスープの味わいを崩さず、ほどよく口内で渾然一体となり、ついつい笑みがこぼれます。
勢いが止まらなくなる前に、日高さんの教えを思い出し、トッピングに手を伸ばすことに。自家製のにんにく醤油、激辛味噌、辛子高菜を少しずつ加えると、自分好みの味に変化を遂げていきます。店舗スタッフいち押しの紅しょうがもマッチ。スープを飲み干すころには、満足度は最高潮でした。
濃厚とは、必ずしも重たいわけではない――。そんなはじめての体験を、あなたができる場所が文龍です。

大きな龍は、遠くからひと目でわかるよう文龍のありかを伝えます。

複数の大釜でスープを管理。
刻一刻と変化するスープの状況を見極めます。

スープはあえてアクごと使用。
本来、雑味になりがちなアクも、新鮮な豚で炊くことで、独特なうまみが増します。


