熊本・阿蘇の地で、“食べられる薔薇”を作る人がいます。
県内で唯一のJAS認定の薔薇農園。
それを実現するためには、人知れず重ねられた試行錯誤の日々がありました。
300種類を試し辿り着いた
“食べられる薔薇”
「食べられる薔薇」をご存じでしょうか?全国的にも珍しいその薔薇を生産する農園が熊本・阿蘇にありました。
育てているのは、阿蘇ローズベリー香園の小笠原徹朗さん。全国の薔薇を食べ歩いたのち、自身で生産を始めたという小笠原さんにお話を伺いました。
「食べられる薔薇を知ったのは、偶然目にしたテレビ番組がきっかけでした。とても興味を惹かれ、自分でも育ててみたいと思ったんです」
その出会いからひと月もしないうちに、小笠原さんは全国の薔薇を食べ歩きに出かけたといいます。それが御年69歳の時のこと。
「桜前線のように、薔薇も南の方から開花していきますから、それを追いかけて鹿児島から北海道まで北上し、10日ほどで一気に食べ歩きました。300種類は試食したと思います」
興味を持ったら、自分の目と舌で確かめる。その行動力には驚かされます。

「そこでわかったことは、食べられる薔薇も、基本的には野草のように苦さや青臭さがあるものが多いということです。美味しいと感じられる薔薇は、蝋が少ないものだということもわかりました。これは植物が身を守るために出すものなのですが、これが多いと美味しくない」
しかし、蝋が少なければその分、風雨、乾燥、紫外線といった外部環境に弱くなるため、食用薔薇の多くはハウス栽培になるのだそう。
「全国をめぐったのち、チャレンジしてみようと、苗屋さんと相談しながら、寒冷な阿蘇の土地に合いそうな23種類の品種を選びました。しかし、そのうち3種類はダメになりましたね。土が合わなかった。やはり、実際にやって、試してみるしかない」
そうして日々の研究と試行錯誤を重ね、現在生産する20品種に辿り着いたとのこと。阿蘇という土地で食用の薔薇を育てることのメリットはあるのでしょうか?
「果実などと同じく、植物は寒暖差がある方が甘くなります。薔薇も例外ではなく、そういう意味ではここは適していると思います。高冷地のため、平地に比べ虫が少ないのもメリットです。しかし、その環境に合い、見た目がよくて美味しく食べられる品種というのは非常に少なく、探すのは大変です。今も探し続けています」
薔薇の品種改良は日進月歩で日々、新たな品種が生まれてくるのだそう。今や世界には2万種を超える薔薇があるというから驚きです。

しかし、安心して食べられる薔薇を育てるためには、観賞用の薔薇とは違う苦労があるといいます。
「そもそも薔薇は病害虫にとても弱く、農薬が必須の花なんです。とにかく虫の百貨店かと思うほど多くの虫が寄ってくるのが薔薇ですからね。それを安心して食べてもらうために、有機JAS認証(※1)を取ろうと思いました。そのためには、薔薇栽培の主流である水耕栽培(※2)では認められず、土でないとダメなんです。リスキーなんですけどね、土は虫との戦いですから」
※1/有機JAS認証:農薬や化学肥料に頼らず自然の力で生産された農作物に与えられる認証。2年以上の無農薬栽培実績と毎年の検査をクリアする必要があります。
※2/水耕栽培:観賞用の薔薇のほとんどがこの方式。水と液体肥料を使って栽培する。空気や温度の管理をコンピューターで行うことが多い。
水耕栽培ならコンピューターで制御できるため、育てやすいとのことですが、有機JAS認証が必要と考える小笠原さんは土にこだわります。そのこだわりにはもうひとつの理由があり、それが「土で育てた方がはるかに香りがいい」と感じるからだそうです。

私たち消費者が安心して食べられるための無農薬薔薇栽培。冬のオフシーズンをのぞき、毎朝4時から作業を始めます。虫取りも全て手作業で行うため、腕は腱鞘炎になり、薔薇のトゲで傷だらけになるといいます。
「毎日のことですから、もう慣れました」
そう言って笑う小笠原さんの姿はとても眩しく、頼もしく思えました。

小笠原さんの薔薇を使った商品はこちら(https://medical-organic-rose.com/)からご購入いただけます。

小笠原徹朗さん
1947年生まれ。北海道千歳市出身、拓殖大学商学部卒。
阿蘇綺麗株式会社 取締役、
株式会社阿蘇ローズベリー香園取締役・農場長。
チンパンジーのパン君で有名な動物園、阿蘇カドリー・ドミニオンを作られたのが小笠原さん。
北海道の定山渓熊牧場で学び、熊本に初めて熊を連れてきた人物でもあります。
