


くまさんの輝き
熊本県農業研究センターで15年かけて開発されたオリジナル品種。
ツヤがあり、粘りが強く、冷めてもおいしいのが特徴。
高地で栽培されるため、夏の暑さによる劣化が少ないことも特色。
緑潤う棚田で
風にそよぐ玉苗は
うるわしい上米になる。
五月雨のそそぐ山田、蛍飛び交う夕べ――。歌人・佐佐木信綱が明治時代、唱歌「夏は来ぬ」に書きとどめた日本の風景の名残が、熊本県山都町にはあります。
その山都町島木に広がる峰棚田を訪れると、今回ご紹介するお米「くまさんの輝き」を栽培する髙森信之さんが、特徴を話してくれました。「丈が低く、倒伏しにくい。台風の多い熊本では、育てやすい品種。粒が大きく、収穫量は多いです」
そして髙森さんは、峰棚田で米を栽培することの長所を、次のように語ります。「このあたりは標高が380メートルくらい。そのため平野に比べ気温が低く、害虫が少ない。それは農薬が少なくて済むということ。田を潤す水が、人為的な汚染にさらされる危険も少ないです」
取材の日、編集部とともに峰棚田を訪れた、上益城農業共同組合の田原安盛さん。ご自身も山都町で生まれ育った、この土地や人のすばらしさをよく知る人です。その田原さんは、「髙森さんたちに育ててもらえて、『くまさんの輝き』も喜んでいると思います」と微笑みます。
「このお米は、標高100から300メートルの土地を栽培の適地としています。そのため、普及に向けて育てていただくにあたり、峰棚田の農家の方々の顔が思い浮かびました。適地の基準に近いですし、なによりその誠実なお仕事ぶりを、私が子どもの頃から見て知っていましたので、みなさまにお願いできたらとご相談にあがりました」
15年もの歳月をかけて開発された新品種と、それをいつくしんで育む農家との幸福な出会いがある一方、棚田の存続という課題にも農家の方々は直面しています。
「400枚ほどある棚田を、いま17、18世帯で維持しています。しかし、傾斜ゆえ農業機械の全面的な導入ができないことや、後継者不足を背景に、これまでのようにすべての田に水がいきわたった風景を残すことは難しくなっています」(髙森さん)。
さらに、近年のいちばんの悩みとして、獣害があります。峰棚田にも10年ほど前からシカやイノシシが出没し、田を荒らし始めました。取材中も、対策として設置された電気柵が、ところどころで目に入ります。
「獣害対策の費用や手間はいま、米農家の大きな負担となっています。けれども、これまで先人が残してきたこの棚田の風景を、絶やさず次の時代に残したい。その思いがあるから、私たちも苦労をいとわずここでの米づくりを続けています」(髙森さん)
峰棚田の維持のために、山都町の農家の方々が、人知れぬ手間と費用をかけていたと、取材を通して編集部も知りました。「くまさんの輝き」を買って食べる。私たちにできる、そんな応援もあります。

2月、阿蘇伝統の野焼きが山都町の棚田でも行われます。
害虫を減らせる利点がある一方、重労働を伴います。
写真は、火消しのための水袋。山火事を防ぐため、最大20キロの水を背負って歩き、接続したジェットシューターで水を噴射します。そんな人知れぬ手間が重ねられ、棚田は維持されています。


国宝・通潤橋を築いた布田保之助(ふた・やすのすけ)が、峰棚田に水を引くために手がけた用水路。1メートルごとに1ミリの落差をつけることで水を運んでいます。

「くまさんの輝き」を育む米農家の方々。左から髙森信之さん、北村敏文さん、荒木忠浩さん。

