春。うららかな陽がさす店。
店名の「POMBO(ポンボ)」とは、ポルトガル語で鳩を意味する言葉。
どこへ飛んで行っても必ず帰ってくる伝書鳩のように、
訪れた人がまた戻ってきたくなるお店にしたい。
そんな願いを込めて名づけられました。
熊本に住む私たちが、何度も足を運びたくなる
朝ごはんのお店「POMBO」のこと。
あなたに、ご紹介します。
ベトナム料理の
ヘルシーな朝食を。
3月中旬。春の到来を感じるあたたかな日。「POMBO」を訪れると、喧騒を忘れ、訪れた人が思い思いのひとときを過ごしていました。カウンターには、一人で食事をする若い女性。テーブル席には、談笑するカップル。コーヒーを飲みながら、本を読んでいる年配の男性の姿もあります。市電が走る通りに面した側はガラス張りで、やわらかな光が店内にさし込んでいました。
「POMBO」は午前8時から午後2時まで営業する、モーニングとランチのお店です。5種類あるメニューは、すべてベトナム料理。本場の味わいは残しながらも、日本人に合うようアレンジされているので、なじみのない方にもおすすめです。
いちばん人気のメニューは、「フォー」。鶏ガラやパクチーの根などを8時間煮込んでつくるスープは、香草のかぐわしさや深いコクが感じられる一方、クセが少なくまろやかな味わい。ベトナムから取り寄せているつるんとした食感の米粉麺は、小麦粉の麺と比べて低脂質なので、起き抜けの体にもやさしい一品です。
そして、フォーと並ぶお店の看板メニューが、「バインミー」というサンドイッチ。ベトナムの国民食ともいえる料理で、フランスパンに鶏肉やハーブ、なます、レバーペーストなどを挟んで食べます。
「POMBO」では具材に鶏肉(蒸し鶏)か魚(アジフライ)を選ぶことができ、どちらもハーブやなますのさわやかな後味が感じられ、もう一口と手を伸ばしたくなります。

チキンのバインミー 800円(税込)。
ハーフサイズもあります。
「パンの生地に米粉を合わせているから、見た目よりあっさり感じられるんだと思います」と教えてくれたのは、店主の五反沙央里さん。本場のバインミーは具材のうまみを最大限活かすために、パンの生地に米粉をブレンドして、あえてパンの風味を抑えています。
本場の味わいになるべく近いものを提供したいとの思いから、「POMBO」では生地づくりから焼きあげに至るまで、五反さんが手づくりしたパンを使っています。さらに、マヨネーズやレバーペーストなどの調味料もお店のオリジナル。それらを手がけているのが、五反さんの夫でシェフの、ロヴリエン・チェイスさんです。

五反沙央里さん
「通勤、通学の人たちを窓越しに眺めながら働く時間が好き」と話す五反さん。

ロヴリエン・チェイスさん
言葉は少ないながらも、やさしい笑顔が魅力的なチェイスさん。日本語が堪能です。
二人の出会い。
「POMBO」開店。
アメリカのオレゴン州出身のチェイスさんは、料理好きだった父の影響で幼いころから調理に親しみ、高校卒業を機にその道へ進みました。フレンチや中華のお店で働きながら経験を積んだといいます。
「昔からよく家で料理をしていたんだ。家族に聞いたら、将来は自分の店を出すって話していたみたい」
転機が訪れたのは25歳のとき。働いていたレストランの日本人オーナーに誘われて来日し、オーナーが経営する熊本の飲食店で働きはじめたことです。3か月だけの予定でしたが、出会った人たちの親切な態度や人柄、街並みの美しさに魅せられ、熊本への移住を決めました。
一方、店主の五反さんは、そのころオーストラリアのメルボルンにいました。自分が本当にやりたいことを見つけたいと27歳で留学し、パン屋で働きながら進路を模索していた五反さん。そこで出会ったのが、バインミーです。「こんなおいしい料理があったんだ、と感動したことをおぼえています。それから街中のバインミーを食べ歩きました」
その後、コロナ禍がきっかけで地元の熊本市に帰り、祖母の家の玄関先を借りて、バインミー専門店をはじめました。本格的に料理を学んだことはなく、手探りでのスタートだったといいます。
そのときに力を貸してくれたのが、留学前から知り合いだったチェイスさんです。調味料のつくりかたを教えてくれたり、一緒にレシピを考えてくれたりするうちに、ともに過ごす時間が増えていった二人。やがて惹かれ合うようになり、二人が30歳のときに結婚。チェイスさんの料理の腕を活かせる店で一緒に働きたいと、2022年11月、フレンチとベトナム料理の店「POMBO」をオープンしました。

ロゴは、五反さんが鳩をモチーフにデザインしたもの。

もともとは倉庫だった場所をリノベーションして開業しました。

五反さんの手書きの文字とイラストが店内の雰囲気をやわらげます。
大切なものを
見失わないために。
結婚のタイミングで子宝にも恵まれた五反さんとチェイスさん。家族の時間も大切にしたいと、モーニングとランチのみの営業にしました。オープン直後から盛況で、日に日に客足は伸びていきます。けれどもそのことが、皮肉にも家族の時間を奪うことになりました。
「朝5時半に家を出て、帰って来るのは夜10時だった。フレンチは仕込みに時間がかかるから(チェイス)」
来店客とゆっくり会話することもできず、目の前の仕事を必死にこなす日々。家族だんらんの時間を確保することも難しくなっていたといいます。そんななかで二人が決断したのは、フレンチの提供をやめることでした。五反さんによると、ベトナム料理は素材の新鮮さを活かしたものが多く、フレンチに比べて仕込みに時間がかかりません。そのため、店のメニューをベトナム料理のみに絞ることで、家族と過ごす時間を増やしたり、来店客ともっと向き合ったりできるのではと考えたのです。
チェイスさんに相談すると、二つ返事で賛成してくれたそうです。家族や来店客との時間を大切にしたいという思いを、チェイスさんも同じようにかかえていたからでした。
そうして24年6月、メニューを一新して再スタートをきりました。いまは、来店客の半数が一人客です。編み物をしたり、本を読んだり、五反さんたちと話をしたり、それぞれのスタイルで過ごせる空間へと生まれ変わりました。
取材の終盤、2歳になる娘の愛咲乃ちゃんがお店にやってきました。レジ打ちの真似をしながら楽しそうに遊んでいる姿に、五反さんとチェイスさんが目を細めています。新しい「POMBO」は、来店客のための場所でもあり、三人の家族のための場所でもありました。

(左から)五反沙央里さん(33歳)、娘の愛咲乃(あさひ)ちゃん(2歳)、ロヴリエン・チェイスさん(33歳)。

店の奥には、お気に入りの絵や家族の思い出の写真が飾られています。

毎日20〜30個のパンを五反さんが手づくりしています。

バインセオ 1,100円(税込)。
豚肉と海老のココナッツミルククレープ。


